土地の相続放棄は土地だけできない?3か月の期限と放棄後の保存義務、ほかの手放し方を相続専門税理士が解説
1筆の土地だけを選んで相続放棄することは、できません。
相続放棄をすると、預金も実家も借金も、まとめて手放すことになるんです。いらない土地だけを外したいなら、遺産分割や国庫帰属制度など、放棄とは別の方法を考えます。
不動産の相続では、この「受け取るか、手放すか」を最初の3か月で決めなければなりません。
この記事で分かること
- 土地だけの相続放棄ができない理由と、遺産分割で「受け取らない」方法
- 相続放棄した土地が、次の相続人から国庫まで移っていく順番
- 2023年4月から「現に占有」している人だけに残る保存義務
- 家庭裁判所への申述の流れ、必要書類、収入印紙800円
- 放棄しても変わらない基礎控除と、兄弟姉妹に回ったときの2割加算
- 相続して売る・寄付する・国に引き取ってもらう、放棄以外の手放し方
目次
1. 土地だけの相続放棄ができない理由
1-1. 財産と借金をまるごと手放す手続き
相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。財産を選んで残すことはできません。
たとえば、預金3,000万円と山林1筆があって、山林だけいらない。ご相談でいちばん多いのがこの形ですが、放棄を申し出た時点で3,000万円の預金も手放すことに。
相続放棄は、受理されたあとで取り消すことができません。山林だけのつもりでも、預金も一緒に手放すことになります。
1-2. 遺産分割で「土地を受け取らない」選択
相続人が2人以上いるなら、遺産分割で「土地は兄が取得する」と決める方法があります。
預金は分け合い、土地は兄が引き継ぐ。実質的には、土地だけを手放す形になります。
遺産分割で土地を受け取らなくても、亡くなった方の借金からは外れません。借金は相続分に応じて自動的に分かれ、お金を貸した側は遺産分割の中身に縛られないためです。
借金がないと分かっているご家庭なら、この方法がいちばん穏やかです。
借金があるかどうか分からないうちは、遺産分割協議書に判を押すのを少し待ってください。

1-3. 限定承認という中間の道と、みなし譲渡の税金
限定承認は、受け取った財産の範囲でだけ借金を払う方法です。借金がいくらあるか分からないときの選択肢になります。
ただし、使いにくい点が2つあります。
- 相続人全員がそろって3か月以内に申し立てる必要がある
- 亡くなった方が土地を時価で売ったものとみなされ、値上がり分に譲渡所得税がかかる
手続きも税金も重いので、専門家と一緒に進める前提で考えてくださいね。
関連記事:遺産分割協議書とは?書き方・記載例4種と必要書類を税理士が解説
2. 相続放棄した土地の行き先と国庫に入るまで
相続放棄をしたあと、土地の相続権が移る順番
- 第1順位:子(子が亡くなっていれば孫)
- 第2順位:父母(父母が亡くなっていれば祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていればおい・めい)
- 全員が放棄するか相続人がいない:相続財産清算人が管理・清算
2-1. 次の順位へ移る相続権と兄弟への連絡
子が3人いて長男だけが放棄した場合は、残る2人の取り分が増えるだけです。
子が全員放棄して初めて、相続権は親や兄弟姉妹に移ります。移っていく順番は、民法887条・889条が決めている相続の順位のとおりです。

土地を理由に子が全員放棄すると、その土地は亡くなった方の兄弟姉妹へ回ります。
叔父や叔母にとっては、何十年も行っていない田舎の土地を、突然引き受ける話です。しかも3か月の期限が、今度はその人たちに始まります。
放棄が決まったら、次の順位になる方へ早めに伝えてください。
2-2. 相続人全員が放棄した場合の相続財産清算人
兄弟姉妹まで全員が放棄すると、相続人がいない状態になります。
このときは、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が、土地を含めた財産の後始末をします。ただ、清算人は誰かが自動的に用意してくれるものではないんです。
STEP 1
申立て
お金を貸していた人や、あとで説明する保存義務を負った人などが家庭裁判所に申し立てる
STEP 2
清算人の選任
家庭裁判所が相続財産清算人を選ぶ
STEP 3
管理と清算
清算人が土地を含めた財産を管理し、売れるものは売って借金の返済にあてる
2-3. 清算人の申立て費用と予納金の負担
申立ての費用は、収入印紙800円と官報公告料5,582円です。
財産から清算人の報酬や管理費用をまかなえないと、申し立てた人が予納金を求められることがあります。売れない土地しか残っていないケースほど、この負担が重くなります。
清算が終わって残った財産は、国のものになります(民法959条)。
関連記事:法定相続人とは?範囲・順位・3つの非課税枠を相続専門税理士が解説
3. 放棄後も残る土地の保存義務と「現に占有」
相続放棄をしても、その土地を「現に占有」している人には保存義務が残ります。次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで続きます。
3-1. 2023年4月の民法改正で絞られた義務の範囲
改正前の民法940条では、放棄した人がその土地を使っていたかどうかに関係なく、管理を続ける義務がありました。一度も行ったことのない遠方の山林や、草が伸び放題の空き地まで、放棄した人がいつまでも気にかけ続けなければならないのか。そんなご相談が本当に多かったんです。2023年4月1日の民法改正で、この義務の範囲が絞られました。
| 改正前 | 2023年4月から | |
|---|---|---|
| 義務 | 管理を続ける | 保存する |
| 負う人 | 放棄した人 | 現に占有する人 |
| 終わり | 次の相続人が管理 | 引き渡すまで |

遠方の山林を一度も使っていなかったなら、放棄した人が保存義務を負うことは通常ありません。
3-2. 実家に住んでいた・鍵を預かっていたケース
反対に、次のような方は「現に占有」に当たる可能性が高いです。
- 亡くなった親と同じ家に住んでいた
- 空き家の鍵を預かり、定期的に様子を見に行っていた
保存義務は、屋根の応急修理や戸締まりなど、財産の価値を落とさないための最低限の手当てです。建て替えや売却まで求められるわけではありません。
3-3. 保存義務から抜けるための引き渡し
引き渡す相手は、次の順位の相続人か相続財産清算人です。
次の相続人もみな放棄していると、清算人を選んでもらわない限り、引き渡す相手がいません。実家に住んでいた方が放棄するなら、清算人の申立てと予納金まで見込んでおきましょう。

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
ご相談いただくなかで、「放棄したのに、隣の方から実家の雨どいのことで連絡が来た」という方がいらっしゃいました。同居していた方には保存義務が残ります。放棄の前に、一緒に確かめておきましょうね。
関連記事:相続登記の義務化はいつから?3年の期限と過料10万円、相続税申告との関係を相続専門税理士が解説
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4. 相続放棄の手続きと3か月の期限、費用800円
相続放棄の期限は、自分が相続人になったと知った時から3か月以内です。財産の調べが間に合わないときは、期限内に家庭裁判所へ延長を申し立てられます(民法915条)。
4-1. 家庭裁判所への申述と照会書の流れ
申し出る先は、亡くなった方が最後に住んでいた地域の家庭裁判所です。土地がある場所の裁判所ではありません。
STEP 1
財産の調査
預金・土地・借金を洗い出す
STEP 2
書類の準備
戸籍と住民票の除票を集める
STEP 3
申述書の提出
最後の住所地の家庭裁判所へ
STEP 4
照会書に回答
裁判所からの質問に答える
STEP 5
受理の通知
申述受理通知書が届く
照会書では、財産をすでに売ったり使ったりしていないかを聞かれることがあります。
4-2. 必要書類の一覧と収入印紙800円の費用
どの続柄でも共通する書類と費用
- 亡くなった方の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 申し出る人の戸籍謄本
- 収入印紙800円
- 連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに違う)
子が申し出るときは、亡くなった方の死亡が載った戸籍謄本も要ります。兄弟姉妹が申し出るときは、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍がすべて必要です。集める戸籍が多いので、1か月では足りないこともあります。
裁判所に払うお金は、800円と切手代だけです。司法書士や弁護士に書類作成を頼むと、別に報酬がかかります。
4-3. 土地の売却・名義変更で放棄できなくなる落とし穴
相続財産を処分すると、相続することを認めたものとみなされ、放棄できなくなります(民法921条)。
次のような行為は、この「処分」に当たるおそれがあります。借金の有無が分かるまでは控えてください。
- 土地を売る
- 相続登記で自分の名義に変える
- 家財や車を業者に売る
屋根の応急修理や戸締まりのように、財産を守るための行為は処分に当たりません。
失敗事例① 家財と車を売ってから放棄を相談したケース
経緯
- 父が亡くなり、長男が実家の片付けで家財と車(査定額40万円)を買取業者に売却
- 2か月後、父の事業の借入金1,200万円の督促状が届き、相続放棄を考え始めた
- 車と家財の売却が「処分」に当たるおそれがあり、放棄が認められない可能性が出てきた
防ぐには
借金の有無が分かるまでは、価値のある物を売らない・名義を変えない

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
放棄の期限が迫っているのに、財産がまだ見えていない。そんなご相談をよくいただきます。財産がそろわないときは家庭裁判所に期限の延長を申し立てられますので、焦らず早めにご相談くださいね。
関連記事:相続手続きの流れ6ステップと期限一覧【相続専門税理士が解説】
5. 相続税の計算で変わること、変わらないこと
| 項目 | 放棄した人がいるとき |
|---|---|
| 基礎控除の人数 | 放棄前の人数で数える |
| 保険の非課税枠 | 放棄した本人は対象外 |
| 債務控除 | 放棄した本人は対象外 |
| 兄弟姉妹の取得 | 相続税が2割増し |
5-1. 放棄しても減らない基礎控除の人数
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
この人数は、相続放棄がなかったものとして数えます。
子2人のうち1人が放棄しても、3,000万円+600万円×2人=4,200万円のまま。
5-2. 放棄した人が使えない生命保険の非課税枠と債務控除
受取人に指定された死亡保険金は、相続放棄をしても受け取れます。
ただし、放棄した人は生命保険の非課税枠を使えないので、受け取った保険金は全額が相続税の対象。このことを知らずに申告して、あとから税額が増える方もいらっしゃいます。
借金を差し引く債務控除も、放棄した人は使えません。
葬式費用は例外です。放棄した人でも、実際に払った葬式費用は差し引けます。
5-3. 兄弟姉妹が相続すると2割加算
子が全員放棄して、亡くなった方の兄弟姉妹が財産を受け取ると、相続税が2割増しになります。兄弟姉妹は、配偶者や子・親と違って加算の対象だからです。
計算事例② 長女の放棄で叔父が相続したケース
前提
- 被相続人:Aさん(80代)。配偶者は他界、子は長女1人。Aさんの両親も他界し、弟が1人
- 遺産:地方の土地と家屋 1,800万円、預金 3,200万円、合計 5,000万円(借金なし)
- 長女は遠方に住み、土地を管理できないとして相続放棄。弟がすべてを相続
計算式
- 基礎控除:放棄がなかったものとして長女1人で数える → 3,000万円+600万円×1人=3,600万円
- 相続税の総額:(5,000万円-3,600万円)×15%-50万円=160万円
- 2割加算:弟は兄弟姉妹なので160万円×20%=32万円
結果
弟の納める税額 160万円+32万円=192万円
このケースのポイント
長女が相続していれば160万円。放棄で32万円増えたうえ、長女は3,200万円の預金も手放しました
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 基礎控除 | 3,600万円 |
| 課税遺産総額 | 1,400万円 |
| 相続税の総額 | 160万円 |
| 2割加算 | 32万円 |
| 弟の税額 | 192万円 |

土地がいらないという理由だけで相続放棄すると、家族全体の相続税がかえって増えることがあります。
関連記事:相続税の基礎控除はいくら?計算式・早見表【2026年最新】相続専門税理士が解説
6. 相続放棄以外で土地を手放す3つの方法
6-1. 相続してから売却・寄付する方法
いったん相続してから手放すのが、放棄以外の基本の形です。売るにも国に引き取ってもらうにも、先に相続登記を済ませます。
売り先の候補は、不動産会社だけではありません。
- 隣の土地の持ち主(境界や通路の都合で欲しがっていることがある)
- 市区町村への寄付(使い道がない土地だと断られることが多い)
固定資産税評価額が100万円以下の土地は、2027年3月31日までの相続登記なら登録免許税がかかりません。
6-2. 相続土地国庫帰属制度の負担金と対象外の土地
売れず、もらい手もないときは、相続土地国庫帰属制度を使って国に引き取ってもらう方法があります。
費用は2段階です。
- 申請するとき:審査手数料 1筆14,000円
- 承認されたとき:負担金 1筆20万円が基本(一部の市街地の宅地、農用地区域の農地、森林などは面積で計算)
申請の段階で断られる土地
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人による利用が予定されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地、所有権に争いがある土地
崖があるなど管理に手間がかかりすぎる土地も、審査で承認されません。審査手数料は、断られても戻ってきません。申請の前に、法務局の相談窓口で見てもらいましょう。
6-3. 放棄と国庫帰属、手元に残る金額の比較
放棄するかどうかは、手元に残るお金で比べてみてください。土地の相続税評価額が低い地方の空き地ほど、差がはっきり出ます。
比較事例③ 地方の空き地と預金900万円を残した父の相続
前提
- 相続人:長男1人(母は他界)。借金はなし
- 遺産:預金900万円、地方の空き地1筆(市街化区域外の更地・固定資産税評価額60万円)
- 「国庫帰属」は、いったん相続してから空き地だけを国に引き取ってもらう方法
計算式
- 国庫帰属の費用:審査手数料1万4,000円+負担金20万円=21万4,000円
- 相続登記:評価額100万円以下のため登録免許税は免税(2027年3月31日まで)。自分で申請すれば費用は戸籍代程度
- 手元に残る金額:900万円-21万4,000円=878万6,000円
結果
手元に残るのは 0円 と 878万6,000円
このケースのポイント
遺産の合計は基礎控除3,600万円の内なので、相続税もかからない
| 項目 | 相続放棄 | 国庫帰属 |
|---|---|---|
| 預金900万円 | 手放す | 受け取る |
| 空き地 | 手放す | 国へ渡す |
| かかる費用 | 0円 | 21万4,000円 |
| 手元に残る | 0円 | 878万6,000円 |

借金がないなら、相続放棄より、相続してから国庫帰属などで手放すほうが、手元に残るお金はほとんどの場合多くなります。
国庫帰属は承認まで時間がかかり、断られる土地もあります。それでも、預金ごと失う放棄よりは、やり直しのきく選択です。

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
放棄するか、相続してから国庫帰属などで手放すか。分かれ目は、借金があるかどうかです。通帳や届いている郵便物を見ながら、まずそこから一緒に確かめましょうね。
関連記事:土地の相続税はいくら?計算方法と最大80%減の特例を税理士が解説
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まとめ
土地だけの相続放棄はできません。
相続放棄は、預金や借金を含めたすべてを手放す手続きです。3か月以内に、亡くなった方が最後に住んでいた地域の家庭裁判所へ申し出ます。費用は収入印紙800円と切手代です。
放棄した土地は、次の順位の相続人へ移っていきます。全員が放棄すれば相続財産清算人が管理し、最後は国のもの。2023年4月からは、放棄の時にその土地を現に占有していた人だけが、引き渡すまで保存義務を負います。
相続税の計算では、放棄しても基礎控除の人数は減らないんですね。
一方で、放棄した本人は生命保険の非課税枠や債務控除を使えず、兄弟姉妹に回れば2割加算がかかります。借金がないなら、相続してから売却・寄付・国庫帰属で手放すほうが、手元に多く残ることがほとんどです。放棄の書類を出す前に、手元に残る金額を一度比べてみてください。
よくある質問
相続財産を処分することです。土地を売る、自分の名義に相続登記をする、家財や車を業者に売るといった行為は、相続を認めたとみなされるおそれがあり、放棄ができなくなります。屋根の応急修理や戸締まりなど、財産を守るための行為は処分に当たりません。
家庭裁判所に払うのは収入印紙800円と連絡用の郵便切手代です。戸籍謄本などの取得費が別にかかり、専門家に書類作成を頼めばその報酬が加わります。
借金がなければ、いったん相続してから売却・寄付・相続土地国庫帰属制度のいずれかを検討するのが基本です。国庫帰属は審査手数料が1筆14,000円、承認後の負担金は1筆20万円が基本で、建物がある土地や境界が明らかでない土地は申請できません。相続放棄は預金も含めてすべてを手放すことになるので、手元に残る金額を比べてから決めてください。
2024年4月1日から相続登記は義務になり、取得を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になります。放置している間も固定資産税の納税通知は届き、相続人が増えるほど売却や国庫帰属の手続きが難しくなります。