【2026年最新】生前贈与とは?贈与税の仕組み・非課税枠・7年ルールを専門税理士が解説
「親の財産を少しずつ子どもに渡しておきたい」「相続税を減らすために何かできることはないだろうか」——そんな想いで生前贈与を検討される方は少なくありません。
生前贈与とは、生きている間に自分の財産を家族などに無償で渡すことをいいます。正しく活用すれば、将来の相続税の負担を大幅に軽減できる有効な手段です。
一方で、贈与のやり方を間違えると贈与税が高額になったり、税務署から「これは贈与ではない」と否認されたりするリスクもあります。特に令和5年の税制改正では、相続財産への加算期間が従来の3年から7年に延長されるなど、制度が大きく変わりました。
この記事では、生前贈与の基本的な仕組みから、2つの課税方式の違い、税額の計算方法、令和5年改正の7年ルール、そして各種非課税制度まで、税理士がわかりやすくお伝えします。
この記事で分かること
- 生前贈与の意味・仕組みと相続税との関係
- 暦年課税と相続時精算課税の違いと選び方
- 贈与税の税率・速算表・具体的な計算例
- 令和5年改正の7年ルールと経過措置の内容
- 住宅資金・教育資金など贈与税がかからない6つの非課税制度
- 名義預金の落とし穴と否認されないためのポイント
- 贈与税の申告方法と必要書類
目次

1. 生前贈与とは
生前贈与とは、存命中に自分の財産を配偶者や子ども、孫などに無償で渡すことをいいます。
法律上は「贈与」と呼ばれ、民法第549条に基づく契約行為です。贈与する側(贈与者)と受け取る側(受贈者)の双方が合意することで成立します。
つまり、一方的に財産を渡すだけでは「贈与」にはなりません。受け取る側が「もらいます」と意思表示をして、初めて贈与契約が成り立つのです。
生前贈与が注目される最大の理由は、将来の相続税の負担を抑えられる点にあります。亡くなった時点での財産が少なくなれば、それだけ課税対象額が減り、結果的に相続税も軽くなります。
1-1. 生前贈与の意味と仕組み
生前贈与の基本的な流れは、次の3ステップです。
① 贈与者(渡す人)が財産を移転する意思を持つ
② 受贈者(もらう人)が受け取る意思を表明する
③ 実際に財産が移転する(現金の振込、不動産の名義変更など)
贈与の方法には「口頭による贈与」と「書面による贈与」の2種類があります。
口頭の贈与は、まだ実行されていない部分について撤回が可能です。一方、書面で行った贈与は原則として撤回できません。このため、後々のトラブルを防ぐためにも贈与契約書を作成しておくのがポイントです。
贈与できる財産には、現金・預貯金をはじめ、不動産(土地・建物)、有価証券(株式・投資信託)、自動車、貴金属など、経済的価値のあるものが幅広く含まれます。
なお、贈与によって財産を受け取った場合には、原則として贈与税がかかります。ただし、年間の贈与額が一定額以下であれば非課税となる仕組みがあり、これを上手に使うことが相続税対策の基本戦略になります。
1-2. なぜ生前贈与に贈与税がかかるのか(贈与税の補完機能)
「財産をあげただけなのに、なぜ税金がかかるの?」と疑問に感じる方も多いでしょう。
その理由は、贈与税が相続税を補完する役割を持っているからです。
もし贈与税という仕組みがなければ、どうなるでしょうか。親が高齢になる前に全財産を子どもに移してしまえば、相続時に課税される財産がなくなり、相続税を完全に回避できてしまいます。
これでは相続税制度の意味がなくなるため、生前に財産を移転した場合にも課税する仕組みとして贈与税が設けられているのです。
実際のところ、贈与税には次のような特徴があり、安易な財産移転を防いでいます。
- 課税最低限が低い: 暦年課税の基礎控除は年間110万円にすぎず、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)と比べて大幅に小さい
- 税率の累進度が高い: 贈与税の税率は最高55%で、相続税と同じですが、より低い金額帯から高税率が適用される
つまり、贈与税は「相続税の抜け穴を防ぐ安全装置」として機能しています。だからこそ、非課税枠や特例制度を正しく理解し、合法的に活用することが大切なのです。
1-3. 生前贈与・相続税・贈与税の違いを整理
生前贈与・相続税・贈与税は、混同されやすい3つの概念です。ここで整理しておきましょう。
| 生前贈与 | 相続 | 遺贈 | |
|---|---|---|---|
| いつ | 生きている間 | 死亡時 | 死亡時(遺言による) |
| 対象者 | 贈与者→受贈者(誰でもOK) | 被相続人→法定相続人 | 被相続人→遺言で指定した人 |
| 税金 | 贈与税 | 相続税 | 相続税 |
| 基礎控除 | 年110万円(暦年課税の場合) | 3,000万円+600万円×法定相続人の数 | 相続税の基礎控除に含まれる |
| 意思 | 贈与者・受贈者双方の合意が必要 | 法律で定められた順位に従う | 被相続人の遺言による |
ポイントは、生前贈与は「行為」であり、贈与税は「その行為にかかる税金」という関係です。
そして贈与税と相続税は、財産の移転タイミングが「生前か」「死亡後か」で使い分けられますが、どちらも「次世代に財産が渡るときに課税する」という共通の目的を持っています。

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
ご相談いただくなかで「贈与と相続、どっちがお得ですか?」というご質問はとても多いです。ただ、正直なところ一概には言えないんですね。特に不動産がからむと、贈与税のほかに不動産取得税や登録免許税もかかるので、トータルで考える必要があります。まずは試算してみることをおすすめしています。
2. 贈与税の2つの課税方法 ―― 暦年課税と相続時精算課税
贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。
どちらの方法を使うかによって、基礎控除の額や税率、相続時の扱いがまったく異なります。令和5年度の税制改正により両制度とも重要な変更が加えられたため、最新の内容をしっかり押さえておきましょう。
2-1. 暦年課税の仕組みと110万円の基礎控除
暦年課税は、贈与税の「原則的な課税方式」です。特別な届出は不要で、贈与を受けたすべての人に自動的に適用されます。
仕組みはシンプルです。1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた残額に対して贈与税がかかります。
つまり、1年間の贈与額が110万円以下であれば、贈与税はゼロです。申告も不要です。
暦年課税のポイントをまとめると、次のとおりです。
- 控除額: 毎年110万円(受贈者1人あたり)
- 対象: 贈与者・受贈者に年齢や続柄の制限なし
- 届出: 不要(何もしなければ自動的に暦年課税)
- 税率: 10%〜55%の超過累進税率
- 相続時の扱い: 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算(令和5年改正後)
この「年110万円の非課税枠」を毎年コツコツ使うことを暦年贈与と呼びます。たとえば、親が子ども2人に毎年110万円ずつ贈与すれば、年間220万円を非課税で移転でき、10年間で2,200万円の財産を課税なしに渡せる計算になります。
ただし、令和5年の改正で相続財産への加算期間が3年から7年に延長されたことには要注意です(詳しくは「4. 生前贈与の「7年ルール」とは」で解説します)。
2-2. 相続時精算課税の仕組みと2,500万円の特別控除
相続時精算課税は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に限って選択できる特別な制度です。
この制度を選ぶと、贈与時には軽い税負担で済ませ、相続が発生した時点で贈与財産と相続財産を合算して相続税を計算します。いわば、「贈与税の先払い+相続時に精算」という仕組みです。
相続時精算課税の最大の特徴は、累計2,500万円までの特別控除があることです。基礎控除110万円を超える贈与でも、特別控除の枠内なら贈与税はかかりません。特別控除を超えた部分には、一律20%の税率で贈与税が課されます。
さらに、令和5年度の改正により、相続時精算課税にも毎年110万円の基礎控除が新設されました。この基礎控除は暦年課税の基礎控除とは別枠で、しかも 相続財産への加算対象にもなりません。
- 控除額: 毎年110万円の基礎控除(令和6年以降の贈与から適用)+ 累計2,500万円の特別控除
- 対象: 贈与者は60歳以上の父母・祖父母、受贈者は18歳以上の子・孫(直系卑属)
- 届出: 最初に贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日に「相続時精算課税選択届出書」を提出
- 税率: 基礎控除・特別控除を超えた部分に一律20%
- 相続時の扱い: 贈与財産の全額(基礎控除110万円を除く)を相続財産に加算して相続税を計算。既に納めた贈与税は差し引かれる(払いすぎた場合は還付)
- 撤回: 一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻せない

2-3.【比較表】暦年課税 vs 相続時精算課税
2つの制度を一覧で比較します。
| 暦年課税 | 精算課税 | |
|---|---|---|
| 届出 | 不要 | 選択届出書の提出が必要(最初の年のみ) |
| 贈与者 | 制限なし | 60歳以上の父母・祖父母 |
| 受贈者 | 制限なし | 18歳以上の子・孫(直系卑属) |
| 基礎控除 | 毎年110万円 | 毎年110万円(令和6年〜) |
| 特別控除 | なし | 累計2,500万円 |
| 税率 | 10%〜55%(累進) | 一律20% |
| 少額の申告 | 不要 | 不要(令和6年〜。ただし特別控除を使う年は申告が必要) |
| 相続加算 | 相続開始前7年以内の贈与額 | 贈与額の全額(基礎控除110万円を除く) |
| 撤回 | ― | 不可(一度選択したら戻せない) |
注目すべきは、令和5年改正で「どちらの制度でも毎年110万円の基礎控除が使える」ようになった点です。ただし、基礎控除を超える部分の取扱いは大きく異なるため、慎重に比較する必要があります。
2-4. どちらを選ぶべきか?ケース別の判断基準
暦年課税と相続時精算課税、どちらが有利かはご家庭の状況によって変わります。以下に典型的なケースを示します。
暦年課税が向いているケース:
- 贈与者がまだ若く(50代など)、長期間にわたり少額ずつ贈与できる
- 贈与する相手が子どもや孫以外(たとえば兄弟や甥姪など)も含まれる
- 毎年の贈与額が110万円以下に収まる予定である
- 将来の制度変更に柔軟に対応したい
相続時精算課税が向いているケース:
- 贈与者が高齢で、まとまった財産を一度に渡したい
- 値上がりが見込まれる資産(株式・不動産など)を早めに移転したい
- 相続税がかからない見込みの家庭(基礎控除の範囲内)で、贈与税も払いたくない
- 収益物件を早期に移転し、家賃収入の帰属を子どもに移したい
相続時精算課税は「撤回不可」に注意
一度、相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については二度と暦年課税に戻すことができません。「やっぱり暦年課税のほうが良かった」と後悔しても取り消せないため、選択前に税理士への相談を強くおすすめします。

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
この改正で相続時精算課税がぐっと使いやすくなりました。110万円の基礎控除が加算対象外になったのは本当に大きな変化です。「うちはどっちがいいの?」とご相談いただくことが増えていますが、ご家庭ごとに有利な制度は違いますので、具体的な数字で比べてみるのが一番です。
関連記事:相続時精算課税制度とは?改正後の110万円控除・届出手続き・計算方法を税理士が解説
3. 贈与税の税率と計算方法
贈与税の税額は、贈与を受けた財産の合計額をもとに計算します。贈与税の税率は贈与額が大きくなるほど高くなる「累進課税」方式で、10%〜55%の8段階に分かれています。
さらに、税率には「一般税率」と「特例税率」の2種類があり、贈与者と受贈者の関係によって適用される税率が変わります。
3-1. 一般税率と特例税率の違い
贈与税の税率は、次の2つに分類されます。
特例税率(特例贈与財産):
直系尊属(父母・祖父母など)から、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の子や孫への贈与に適用されます。一般税率よりも税率が低く、税負担が軽くなります。
一般税率(一般贈与財産):
上記以外のすべての贈与に適用されます。たとえば、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から未成年の子への贈与、他人からの贈与などが該当します。
多くのご家庭で行われる「親から成人した子への贈与」は特例税率が適用されるため、まずはこちらの税率表を確認しましょう。
3-2. 贈与税の速算表
実際の計算では、以下の速算表を使います。基礎控除(110万円)を差し引いた後の「課税価格」に税率を掛け、控除額を引くだけで税額が算出できます。
【特例贈与財産の速算表】(直系尊属→18歳以上の子・孫)
| 課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | ― |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
【一般贈与財産の速算表】(上記以外の贈与)
| 課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | ― |
| 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
計算式: 基礎控除後の課税価格 × 税率 − 控除額 = 贈与税額
3-3.【計算例】親から子へ500万円を贈与した場合
では、実際の計算例で確認してみます。
例: 65歳の父親が、28歳の長男に現金500万円を贈与した場合
直系尊属から18歳以上の子への贈与なので、特例税率が適用されます。
計算手順:
① 課税価格を算出する
500万円 − 110万円(基礎控除) = 390万円
② 速算表に当てはめる
390万円は「400万円以下」の区分 → 税率15%、控除額10万円
③ 贈与税額を計算する
390万円 × 15% − 10万円 = 48万5,000円
結果:贈与税は48万5,000円 です。
もしこれが兄弟間の贈与だった場合は一般税率が適用され、同じ390万円に対して「400万円以下:税率20%、控除額25万円」が適用されます。
390万円 × 20% − 25万円 = 53万円
つまり、一般税率だと約4万5,000円多くなります。

3-4. 贈与税はいくらからかかる?
「結局、いくらまでなら贈与税がかからないの?」という疑問に、明確にお答えします。
暦年課税の場合:年間110万円以下の贈与は非課税
この110万円は、「受贈者1人あたり」の年間合計額です。つまり、父と母それぞれから110万円ずつ(計220万円)をもらった場合は、合計220万円に対して基礎控除110万円を引いた110万円が課税対象になります。
逆に、父から80万円、母から30万円の計110万円であれば、基礎控除の範囲内なので贈与税はゼロです。
相続時精算課税の場合:年間110万円+累計2,500万円まで贈与税がかからない
令和6年以降、相続時精算課税でも毎年110万円の基礎控除が適用されます。これに加え、累計2,500万円の特別控除があるため、合計すると相当な金額を贈与税なしに渡すことが可能です。
ただし、相続時精算課税で受けた贈与(基礎控除110万円を除く)は、将来の相続時に全額が相続財産に加算される点を忘れてはなりません。
「贈与税がかからない=申告不要」とは限りません。暦年課税で年間110万円以下なら申告不要ですが、配偶者控除や住宅取得資金の非課税など、特例を使って税額がゼロになる場合は申告が必要です。
関連記事:贈与税の税率は何パーセント?税率表・早見表・計算方法を相続専門税理士が解説
4. 生前贈与の「7年ルール」とは【令和5年改正】
生前贈与をしても、一定期間内の贈与額は相続税の計算時に「相続財産」として加算される——これが、いわゆる生前贈与加算のルールです。
令和5年度税制改正により、この加算期間が従来の3年から7年に延長されました。改正の影響は大きく、今後の生前贈与戦略を考えるうえで避けては通れないテーマです。
4-1. 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される
暦年課税を選んでいる場合、相続または遺贈により財産を取得した人が、亡くなった方(被相続人)から相続開始前7年以内に贈与を受けていた場合、その贈与財産は相続税の課税対象に含められます。
たとえば、父親が2035年に亡くなった場合、2028年以降に父親から受けた暦年贈与は全額が相続財産に加算されます。基礎控除の110万円以内だった贈与でも加算対象になる点には気をつけてください。
なお、加算された贈与財産にかかっていた贈与税額は、相続税額から差し引くことができます(二重課税の調整)。
4-2. 改正前(3年)と改正後(7年)の違い
改正の前後を比較すると、次のようになります。
| 改正前(〜R5.12) | 改正後(R6.1〜) | |
|---|---|---|
| 加算期間 | 相続開始前3年以内 | 相続開始前7年以内 |
| 加算額 | 贈与財産の全額 | 直近3年以内:全額 / 4〜7年前:合計から100万円を控除した残額 |
| 対象者 | 相続・遺贈により財産を取得した人 | 同左 |
大きなポイントは、延長された4〜7年前の部分については合計100万円の控除が認められている点です。つまり、4年前〜7年前に受けた贈与の合計額から100万円を差し引いた金額が加算されます。
4-3. 経過措置の内容
加算期間の延長は、令和6年1月1日以降に行われた贈与から段階的に適用されます。令和5年以前に行われた贈与には従来の「3年ルール」がそのまま適用されるため、すぐに7年分が遡って加算されるわけではありません。
実際に加算期間が「丸7年」になるのは、令和13年(2031年)1月1日以降に相続が発生した場合からです。
| 相続発生 | 加算対象の贈与 |
|---|---|
| 〜令和8年(2026年)12月 | 相続開始前3年以内(従来どおり) |
| 令和9年(2027年)1月〜 | 令和6年1月1日以降の贈与から順次4年目以降も加算対象に |
| 令和13年(2031年)1月〜 | 相続開始前7年以内の贈与がすべて加算対象 |
つまり、加算期間は令和6年を起点に毎年1年ずつ延びていき、令和13年以降に完全移行するイメージです。

4-4. 加算対象外となる贈与
すべての生前贈与が加算されるわけではありません。以下の贈与は、7年ルールの加算対象外です。
- 相続時精算課税の基礎控除110万円以内の贈与(令和6年以降)
- 住宅取得資金の贈与の非課税の適用を受けた部分
- 教育資金の一括贈与の非課税の適用を受けた部分
- 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税の適用を受けた部分
- 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)の適用を受けた部分
- 相続・遺贈により財産を取得していない人への贈与(※孫など、相続人以外への贈与は原則として加算対象外。ただし遺贈を受けた場合は対象になる)

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
「孫に贈与すれば加算されないんですよね?」というご質問をよくいただきます。たしかに、孫が相続人でなければ原則として加算対象外です。ただ、孫を保険の受取人にしていたり、遺言で財産を渡す予定がある場合は話が変わります。加算を避けるつもりが、別のところで対象になってしまうケースを実際に見ていますので、全体のバランスを確認することをおすすめします。
5. 贈与税がかからない方法【非課税制度まとめ】
贈与税には、一定の条件を満たすことで税金がかからなくなる非課税制度がいくつも設けられています。
これらの制度を正しく活用すれば、数百万円〜数千万円の財産を合法的に非課税で移転することが可能です。ここでは代表的な6つの制度を紹介します。
5-1. 暦年贈与を計画的に活用する(年110万円)
もっとも基本的かつ手軽な方法が、暦年課税の基礎控除(年110万円)を使った計画的な贈与です。
たとえば、子ども2人と孫3人の計5人に毎年110万円ずつ贈与すれば、年間550万円、10年間で5,500万円を非課税で移転できます。
ただし、暦年贈与にはいくつかの落とし穴があります。
注意すべきポイント:
- 「定期贈与」とみなされるリスク: 「毎年110万円を10年間贈与する」という約束(契約)を最初に取り交わしてしまうと、初年度に1,100万円の贈与があったとみなされる可能性があります。毎年あらためて贈与契約を結ぶようにしましょう
- 名義預金と判断されるリスク: 子や孫名義の口座にお金を入れても、通帳・印鑑を贈与者が管理していれば「名義預金」として相続財産に含まれます
- 7年ルール: 相続開始前7年以内の暦年贈与は相続財産に加算されます
これらのリスクを避けるためには、贈与のたびに贈与契約書を作成し、受贈者本人が通帳・印鑑を管理し、実際に受贈者がそのお金を使える状態にしておくことが絶対条件です。
5-2. 相続時精算課税の基礎控除(年110万円)を活用する
令和6年以降、相続時精算課税にも毎年110万円の基礎控除が新設されました。
この基礎控除にはとても大きなメリットがあります。
- 暦年課税の7年ルール(相続財産への加算)の対象にならない
- 毎年110万円以内なら贈与税の申告も不要
つまり、相続時精算課税を選択したうえで毎年110万円以内の贈与を続ければ、贈与税も相続税もかからない(加算もされない)形で財産を移転できるのです。
ただし、110万円を超える贈与をした場合は、超えた部分(特別控除を使い切っていれば一律20%課税)が相続財産に加算されます。
暦年課税の110万円 vs 相続時精算課税の110万円
どちらも「年110万円まで非課税」ですが、暦年課税の110万円は7年ルールで加算対象になり得るのに対し、相続時精算課税の110万円は加算対象外です。この違いは令和5年改正の最大のポイントです。
5-3. 住宅取得資金の贈与の非課税
マイホームの購入を考えている子や孫がいる場合に活用できるのが、住宅取得資金の贈与の非課税制度です。直系尊属(父母・祖父母)からの資金援助について、一定額まで贈与税がかかりません。
この制度を使うには、まず受贈者(もらう側)が以下の条件を満たす必要があります。
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
- その年の合計所得金額が2,000万円以下であること(床面積40㎡以上50㎡未満の住宅は1,000万円以下)
次に、取得する住宅にも条件があります。
- 床面積が40㎡以上240㎡以下であること
- 贈与を受けた翌年の3月15日までに取得し、居住を開始すること(または居住見込みであること)
非課税で受けられる金額は、住宅の省エネ性能によって異なります(適用期間:令和6年1月1日〜令和8年12月31日)。
| 住宅の種類 | 限度額 |
|---|---|
| 省エネ等住宅(断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上など) | 1,000万円 |
| 上記以外の住宅 | 500万円 |
暦年課税の基礎控除110万円や相続時精算課税との併用も可能です。たとえば省エネ等住宅なら、「非課税1,000万円+基礎控除110万円」で合計1,110万円まで非課税になります。
さらに、この制度を利用した贈与額は7年ルールの加算対象外なので、相続税対策としても有効です。
5-4. 教育資金の一括贈与の非課税
子や孫の将来の教育費をまとめて支援したい場合に使えるのが、教育資金の一括贈与の非課税制度です。受贈者1人あたり最大1,500万円まで贈与税がかかりません(令和8年3月31日まで。令和8年度税制改正大綱で延長しない方針が示されており、制度終了が見込まれます)。
何に使えるか:
学校に直接支払う費用(入学金・授業料・施設設備費・給食費・修学旅行費など)は1,500万円の枠内で非課税です。塾や習い事、スポーツ教室など学校以外への支払いも対象になりますが、こちらは500万円が上限です。
誰が使えるか:
- もらう人(受贈者): 教育資金管理契約の締結日に30歳未満であること。かつ、前年の合計所得金額が1,000万円以下であること
- あげる人(贈与者): 受贈者の直系尊属(父母・祖父母など)に限定
利用の流れ:
金融機関で教育資金管理契約に基づく専用口座を開設し、贈与資金を預け入れます。そのうえで「教育資金非課税申告書」を金融機関経由で税務署に提出します。教育費を支払うたびに領収書を金融機関に提出し、使途の確認を受けるという仕組みです。
知っておくべきリスク:
- 受贈者が30歳に達した時点で使い残しがあれば、残額に贈与税が課される(一般税率で計算)
- 契約期間中に贈与者が亡くなった場合、未使用の管理残額は原則として相続財産に加算される。ただし、 受贈者が23歳未満・在学中・教育訓練中であれば加算されない
5-5. 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税
結婚や出産にまとまった費用がかかる子や孫を支援するための制度で、1人あたり最大1,000万円まで非課税で一括贈与できます(令和9年3月31日までの措置。令和7年度税制改正で2年延長)。
ただし、累計利用は全国で約8,000件程度とかなり少なく、実際のニーズに対して手続きの煩雑さが課題とされています。教育資金の一括贈与と同様、将来的な廃止の議論もあるため、利用を検討する場合は早めの判断が必要です。
対象になる費用:
結婚関連と子育て関連の2つに分かれます。
- 結婚関連(上限300万円): 挙式・披露宴の費用、新居の家賃・敷金、引越し費用など
- 子育て関連(上限なし・1,000万円の枠内): 不妊治療費、妊婦健診・分べん費用、産後ケア費用、子の医療費、保育料・ベビーシッター代など
なお、婚活費用・結婚指輪・顔合わせ費用などは対象外です。子育ての対象も未就学児までで、小学校以降の学費は含まれません。
誰が使える?:
贈与者は受贈者の直系尊属(父母・祖父母など)に限られます。受贈者は金融機関との資金管理契約の締結日に18歳以上50歳未満で、前年の合計所得金額が1,000万円以下であることが条件です。
手続きの流れは教育資金と同じく、金融機関で専用口座を開設し、「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出します。
見落としやすいリスク:
- 贈与者の死亡時: 使い残しの管理残額が相続財産に加算される。教育資金と異なり、受贈者の年齢・在学状況による除外がないため、全額が加算対象になる
- 50歳到達時: 受贈者が50歳に達した時点の残額には贈与税が課される(一般税率で計算)
5-6. 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
長年連れ添った夫婦の間で自宅を贈与する場合に使える制度で、基礎控除110万円に加えて最高2,000万円(合計最大2,110万円)まで非課税になります。通称「おしどり贈与」と呼ばれ、7年ルールの加算対象外です。
ただし、この制度は同じ配偶者からの贈与について一生に一度しか使えません。取り消しもできないため、利用するかどうかは慎重に判断する必要があります。
押さえておくべきポイントは3つです。
ポイント①|対象は「自宅」に関する贈与だけ
贈与できるのは、居住用不動産(自宅の土地・建物)そのもの、または自宅を購入するための金銭に限られます。現金や有価証券の贈与には使えません。
ポイント②|婚姻届の提出から20年以上が必要
法律上の婚姻関係が20年以上続いていることが条件です。事実婚(内縁)は対象外です。
ポイント③|贈与を受けた翌年3月15日までに住み始めること
贈与を受けた不動産に現実に居住し、その後も住み続ける見込みがあることが必要です。
おしどり贈与は「非課税=お得」とは限りません。不動産を贈与すると、不動産取得税(相続の場合は非課税)と登録免許税(相続の0.4%に対し贈与は2%)がかかります。税理士への相談なしに「2,000万円も控除できるならお得!」と飛びつくのは危険です。
参考:夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除(国税庁)

| 制度 | 限度額 | 贈与者 | 受贈者 | 期限 | 7年加算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 暦年課税 | 年110万円 | 制限なし | 制限なし | 恒久 | 対象 |
| 精算課税 | 年110万円 | 親・祖父母(60歳↑) | 子・孫(18歳↑) | 恒久(R6〜) | 対象外 |
| 住宅取得資金 | 500〜1,000万円 | 直系尊属 | 18歳以上 | R8.12まで | 対象外 |
| 教育資金 | 1,500万円 | 直系尊属 | 30歳未満 | R8.3終了見込 | 対象外 |
| 結婚・子育て資金 | 1,000万円 | 直系尊属 | 18〜49歳 | R9.3まで | 対象外※死亡時残額は加算 |
| おしどり贈与 | 2,000万円 | 配偶者(婚姻20年↑) | 配偶者 | 恒久 | 対象外 |
6. 家族間の生前贈与 ―― 相手別の注意点
生前贈与は家族の間で行われることがほとんどですが、「誰から誰へ」贈与するかによって、適用される税率や使える特例制度が大きく異なります。
ここでは、よくある4つのパターンについて、それぞれの注意点をお伝えします。
6-1. 親子間の贈与
もっとも一般的な生前贈与のパターンです。
親(父母・祖父母を含む直系尊属)から18歳以上の子・孫への贈与には特例税率が適用されるため、一般税率よりも税負担が軽くなります。
親子間で活用しやすい制度は多く、具体的には以下が挙げられます。
- 暦年課税の基礎控除(年110万円)
- 相続時精算課税(累計2,500万円+毎年110万円の基礎控除)
- 住宅取得資金の非課税(最大1,000万円)
- 教育資金の一括贈与の非課税(最大1,500万円)
- 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税(最大1,000万円)
一方で、親子間の贈与で注意すべきは名義預金リスクです。「子どもの口座に振り込んだが、通帳と印鑑は親が管理している」というケースは、税務署に贈与として認められない恐れがあります(→「8. 名義預金と生前贈与」で詳しく解説)。
6-2. 夫婦間の贈与
夫婦間で行われる贈与には一般税率が適用されます。親子間で使える特例税率は、夫婦間には使えません。
ただし、日常の生活費や教育費として渡すお金は、社会通念上妥当な範囲であれば贈与税の対象になりません。たとえば、妻に毎月の食費や光熱費をまとめて渡すようなケースは課税されません。
夫婦間で特に活用を検討したいのが、前述の贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)です。婚姻期間20年以上であれば、居住用不動産または購入資金について最大2,000万円+基礎控除110万円の合計2,110万円まで非課税で贈与できます。
ただし、おしどり贈与は不動産取得税・登録免許税がかかるため、税負担の総額で見ると相続のほうが有利になるケースも多いです。配偶者には相続税の配偶者控除(法定相続分または1億6,000万円まで非課税)があるため、 必ず両方を比較検討しましょう。
6-3. 孫への贈与
孫への贈与は、相続税対策としてとても注目されている手法です。
その理由は、孫は通常、法定相続人ではないため、生前贈与加算(7年ルール)の対象にならないからです。つまり、孫へ暦年贈与した分は、原則として相続財産に加算されません。
ただし、以下の場合は加算対象になるため気をつけてください。
- 孫が遺言で財産を受け取った場合(遺贈)
- 孫が生命保険の受取人になっている場合
- 孫を養子にしている場合(法定相続人になるため)
また、孫が18歳以上であれば祖父母からの贈与に特例税率が適用されます。教育資金・結婚子育て資金の非課税制度も利用可能です。
孫への贈与 = 世代をひとつ飛ばせる
親→子→孫と2段階で財産を渡す場合、相続税が2回かかります。しかし祖父母→孫と直接贈与すれば、1回分の相続税を回避できます。この「世代スキップ」効果が、孫への贈与が注目される最大の理由です。
6-4. 兄弟姉妹間の贈与
兄弟姉妹間の贈与は、直系尊属からの贈与ではないため一般税率が適用されます。特例税率は使えません。
また、兄弟姉妹間では住宅取得資金・教育資金・結婚子育て資金の各非課税制度もすべて利用できません(これらは直系尊属からの贈与が条件のため)。
このため、兄弟姉妹間で多額の財産を移転したい場合は、暦年課税の基礎控除(年110万円)を長期間にわたって活用するか、そもそも贈与ではなく遺言による遺贈を検討したほうが合理的なケースもあります。
7. 不動産の生前贈与
不動産の生前贈与は、節税対策として検討される一方で、現金の贈与にはない特有のコストやリスクが伴います。
7-1. 不動産を生前贈与するメリット・デメリット
メリット:
- 贈与者が元気なうちに確実に名義を移転できる(相続トラブルの予防)
- 収益物件の場合、贈与後の家賃収入が受贈者のものになる(将来の相続財産の増加を防げる)
- 値上がりが見込まれる不動産は、贈与時の評価額で移転できる
デメリット:
- 贈与税が高額になる可能性がある(特に基礎控除110万円を大きく超える評価額の場合)
- 不動産取得税がかかる(相続の場合は非課税)
- 登録免許税が相続より高い(贈与:固定資産税評価額の2%、相続:0.4%)
- 小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性がある
7-2. 贈与と相続どちらが得か
結論から言えば、多くのケースで相続のほうが税負担は軽くなります。
その理由は3つあります。
理由①:相続税には大きな基礎控除がある
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。相続人が3人なら4,800万円まで非課税になります。これに対し、贈与税の基礎控除は年間わずか110万円です。
理由②:不動産関連の付帯費用が違う
不動産を相続する場合、不動産取得税はかからず、登録免許税も0.4%で済みます。一方、贈与の場合は不動産取得税(土地:評価額の1.5%、建物:3%)と登録免許税2%が上乗せされます。
理由③:小規模宅地等の特例は相続でしか使えない
被相続人の自宅の土地を配偶者や同居親族が相続する場合、評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」があります。この特例は贈与には適用されません。
ただし、以下のようなケースでは贈与が有利になることもあります。
- 今後大幅な値上がりが見込まれる土地や再開発エリアの不動産
- 賃貸アパートなどの収益物件(将来の家賃収入を相続財産から切り離せる)
- 相続人間で争いが予想され、生前に確実に移転しておきたい場合

7-3. 不動産贈与にかかる税金(贈与税・不動産取得税・登録免許税)
不動産を贈与する際にかかる主な税金をまとめました。
| 税金 | 計算方法 | 相続の場合 |
|---|---|---|
| 贈与税 | (評価額−110万円)×税率−控除額 | 相続税で計算(控除大) |
| 不動産取得税 | 土地:評価額×1/2×3% 建物:評価額×3% | 非課税 |
| 登録免許税 | 評価額×2% | 評価額×0.4% |
たとえば、固定資産税評価額2,000万円の土地を贈与する場合、登録免許税だけで40万円(2,000万円×2%)かかります。相続なら8万円(2,000万円×0.4%)で済むため、差額は32万円にもなります。
7-4. 不動産の名義変更手続き
不動産を贈与した場合、法務局で所有権移転登記(名義変更)を行います。
手続きの流れ:
① 贈与契約書を作成する
② 必要書類を準備する(贈与者の印鑑証明書、受贈者の住民票、不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書など)
③ 法務局に登記申請する
④ 翌年2月1日〜3月15日に贈与税の申告を行う(基礎控除以下の場合でも、特例を使う場合は申告が必要)
登記手続きは自分で行うことも可能ですが、書類不備のリスクを避けるために司法書士に依頼するのが一般的です。報酬の相場は5万円〜10万円程度です。

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
不動産の贈与については「先に渡しておきたい」というお気持ちはよくわかります。ただ、ご相談いただいて試算してみると、相続で渡したほうが数十万円〜数百万円安くなるケースがかなり多いんです。まずは「贈与した場合の総コスト」と「相続した場合の総コスト」を並べてみてください。その比較なしに進めてしまうのが、一番もったいないパターンです。
8. 名義預金と生前贈与 ―― 否認されないためのポイント
税務調査で最も指摘されやすいのが名義預金の問題です。せっかく生前贈与をしたつもりでも、税務署から「これは贈与ではない」と否認されれば、全額が被相続人の相続財産として課税されてしまいます。
8-1. 名義預金とは
名義預金とは、口座の名義は子や孫になっているものの、実質的な管理・支配が贈与者(親・祖父母)のもとにある預貯金のことです。
典型的なパターンは以下のとおりです。
- 親が子ども名義の口座を開設し、親が通帳・印鑑・キャッシュカードを保管している
- 子どもはその口座の存在すら知らない
- 口座のお金を誰も引き出していない(生活費や教育費として使われていない)
このような状態では、「子どもに財産が移転した」とはいえず、形式的に名義を変えただけと判断されます。
8-2. 子ども名義の口座に預けるだけでは贈与にならない理由
民法上、贈与は「あげます」「もらいます」という当事者双方の意思の合致がなければ成立しません。
たとえ口座の名義が子どもでも、子ども自身が「贈与を受けた」という認識を持っていなければ、贈与契約は成立していないことになります。
税務署が名義預金を判断する際の主なチェックポイントは、以下の4つです。
① 受贈者がその口座の存在を認識しているか
子ども本人が口座の存在を知らなければ、受贈の意思がないため贈与不成立。
② 通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が管理しているか
贈与者が管理し続けている場合は実質的な支配権が移転していないと判断される。
③ 受贈者がそのお金を自由に使える状態にあるか
引き出しや使途に贈与者の許可が必要な状態は、贈与と認められにくい。
④ 贈与の事実を証明する書面があるか
贈与契約書がなければ、「いつ贈与の合意があったか」の立証が困難になる。
8-3. 名義預金を正しい生前贈与にする方法
名義預金ではなく、税務署に否認されない正式な生前贈与として認めてもらうためには、以下の5つの対策が有効です。
対策①:毎年、贈与契約書を作成する
「誰が」「誰に」「いくら」「いつ」贈与するかを書面に残し、贈与者・受贈者の双方が署名・押印します。
対策②:受贈者本人の口座に振り込む
受贈者自身が普段使っている口座に振り込むのがベストです。贈与のためだけに新しく作った口座は、管理状況次第で名義預金とみなされるリスクがあります。
対策③:通帳・印鑑・カードは受贈者本人が管理する
贈与者の手元に置いたままでは、財産が移転したとは認められません。
対策④:受贈者がそのお金を実際に使う
もらったお金の一部を受贈者が生活費や買い物に使っている実績があれば、「自由に使える状態にあった」ことの証拠になります。
対策⑤:あえて基礎控除を少し超える額を贈与し、申告・納税する
年111万円を贈与して1万円分の贈与税(1,000円)を申告・納税すれば、「贈与の事実がある」ことの公的な記録が残ります。ただし、近年はこの手法自体が形式的と見なされるリスクもあるため、契約書の作成や通帳管理の徹底が前提です。
8-4. 贈与契約書の作り方
贈与契約書には、法律上の決まった書式はありません。以下の項目が記載されていれば、手書きでもパソコン作成でも有効です。
記載すべき項目:
- 贈与者の氏名・住所・押印
- 受贈者の氏名・住所・押印
- 贈与する財産の内容(「現金○○万円」「○○銀行○○支店 普通預金口座に振込」など)
- 贈与の実行日(振込日など)
- 契約書の作成日
より確実に証拠力を高めるには、確定日付を取得する方法があります。公証役場で贈与契約書に確定日付のスタンプを押してもらえば、「この日に確かにこの書面が存在した」ことが公的に証明されます。手数料は1件700円です。

9. 生前贈与の注意点と失敗しやすいポイント
生前贈与は正しく行えば大きな節税効果がありますが、やり方を誤ると税務署から否認されたり、思わぬ税負担が生じたりします。ここでは、実務でよく見かける失敗パターンをまとめます。
9-1. 定期贈与(連年贈与)とみなされるリスク
「毎年110万円を10年間贈与する」という取り決めを最初にしてしまうと、税務署から定期贈与と判断されるリスクがあります。
定期贈与とは、「一定の金額を定期的に給付する」契約のことです。この場合、契約成立時に10年分の合計額(1,100万円)に対して一括で贈与税が課される可能性があります。
防ぐための対策:
- 長期計画を口頭や書面で約束しない
- 毎年あらためて個別の贈与契約書を作成する
- 贈与の金額や時期を毎年少しずつ変える(111万円、105万円、108万円など)
- 贈与しない年を挟む
税務署は「10年間きっちり毎年12月25日に110万円を振り込んでいた」といったパターンを見ると、定期贈与を疑います。あえて不規則にすることが、定期贈与リスクの回避につながります。
9-2. 相続時精算課税は撤回できない
「2. 贈与税の2つの課税方法」で解説したとおり、相続時精算課税は一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税に戻すことができません。
「とりあえず2,500万円の非課税枠が大きいから選んでおこう」と安易に選択すると、以下のようなデメリットが生じることがあります。
- その贈与者から110万円超の贈与を受けるたびに申告が必要になる(暦年課税なら110万円以下は申告不要)
- 基礎控除110万円を超える贈与額はすべて相続財産に加算される
- 贈与財産の評価額は「贈与時の価額」で固定されるため、不動産が値下がりした場合は不利になる
選択前には「この制度を選んだ場合と選ばなかった場合」の具体的なシミュレーションを必ず行いましょう。
9-3. 贈与税の時効は原則6年(悪質な場合7年)
贈与税の申告をしなかった場合、税務署が賦課決定できる期間(いわゆる時効)は、原則として法定申告期限から6年です。ただし、偽りその他不正の行為があった場合は7年に延長されます。
「時効が過ぎれば税金を払わなくてもいい」と考える方もいますが、以下の理由から時効を頼りにするのは極めて危険です。
- 税務署は被相続人の過去の預金履歴を数十年分遡って調査可能
- 名義預金と判断されれば、時効ではなく「そもそも贈与が成立していない」として相続財産に加算される
- 無申告が発覚した場合、本来の贈与税に加えて無申告加算税(15〜20%)と延滞税が課される
9-4. 税務調査で指摘されやすいパターン
相続税の税務調査で、贈与関連の指摘を受けやすい代表的なパターンをまとめます。
パターン①:名義預金
先述のとおり、もっとも多い指摘事項。通帳・印鑑の管理状況と受贈者の認識がカギ。
パターン②:贈与契約書がない、または後から作成した
日付が不自然に揃っていたり、複数年分の契約書が同じ筆記具・同じ日に書かれていたりすると、事後的な作成を疑われる。
パターン③:110万円ぴったりの定期的な振込
「毎年12月に110万円」のパターンは、定期贈与の疑いとともに、相続対策の意図が明白で精査対象になりやすい。
パターン④:贈与したはずの不動産を贈与者がそのまま使っている
自宅を子に贈与したのに親がそのまま住み続け、固定資産税も親が払い続けているケースは、実質的な財産移転がないと判断されうる。
パターン⑤:多額の贈与の直後に相続が発生
体調の悪化を知って慌てて贈与したケースは、税務署が重点的に確認する。

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
税務調査は申告から1〜2年後に入ることが多く、実際に私がお手伝いしたケースでも、ご家族全員の口座履歴を細かく確認されました。「子どもの口座に移しておけば大丈夫」と思われる方もいらっしゃいますが、税務署はそこまでしっかり見ています。きちんと手順を踏んでおけば怖がる必要はありませんので、ご安心ください。
10. 贈与税の申告方法と手続き
贈与を受けた場合、一定の条件に該当すると贈与税の申告が必要になります(相続税の申告とは別の手続きです)。ここでは、申告が必要なケースと不要なケース、具体的な手続きの流れをまとめます。
10-1. 申告が必要なケースと不要なケース
| ケース | 申告 | 理由 |
|---|---|---|
| 暦年110万円以下 | 不要 | 控除内 |
| 暦年110万円超 | 必要 | 税額発生 |
| 住宅資金で税額ゼロ | 必要 | 特例に申告必須 |
| おしどり贈与で税額ゼロ | 必要 | 特例に申告必須 |
| 精算課税110万円以下(R6〜) | 不要 | 控除内 |
| 精算課税110万円超 | 必要 | 特別控除利用時も必要 |
| 精算課税の初回選択 | 必要 | 届出書の提出要 |
特に注意すべきは、「特例を使って税額がゼロになる場合でも申告は必要」という点です。申告を忘れると特例が適用できず、本来ゼロだったはずの贈与税が全額課税されてしまいます。
10-2. 申告期限(翌年2月1日〜3月15日)
贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。
たとえば、令和7年(2025年)中に贈与を受けた場合、令和8年(2026年)2月1日〜3月15日が申告期間です。
所得税の確定申告と同じ時期ですが、贈与税の申告は所得税の申告とは別の手続きです。e-Tax(電子申告)での提出も可能です。
期限を過ぎた場合のペナルティ:
- 無申告加算税: 納付すべき税額の15%(50万円を超える部分は20%)
- 延滞税: 納付期限の翌日から発生(年率は年度により変動)
- 特例の適用不可: 住宅取得資金の非課税や配偶者控除など、期限内申告が条件の特例が使えなくなる
10-3. 必要書類一覧
申告に必要な書類は、適用する制度によって異なります。
【暦年課税(通常の贈与)】
- 贈与税の申告書(第1表)
- 受贈者のマイナンバーが確認できる書類
- 本人確認書類
【相続時精算課税を初めて選択する場合】
上記に加えて、
- 相続時精算課税選択届出書
- 受贈者の戸籍謄本(贈与者との親子関係を証明)
- 受贈者の戸籍の附票の写し
【住宅取得資金の非課税を適用する場合】
上記に加えて、
- 住宅の登記事項証明書
- 住宅の売買契約書または請負契約書の写し
- 住宅用家屋の新築等に係る対価等の額が明らかにする書類
- 省エネ等住宅の場合:住宅性能証明書等
10-4. 申告書の書き方
贈与税の申告書は国税庁のホームページ「確定申告書等作成コーナー」から作成できます。画面の案内に沿って金額を入力すれば税額が自動計算されるため、手書きよりもオンライン作成がおすすめです。
暦年課税の場合の基本的な記入の流れ:
① 受贈者の情報(氏名・住所・マイナンバー)を入力する
② 贈与者の情報(氏名・住所・続柄・生年月日)を入力する
③ 贈与された財産の種類・金額を入力する
④ 特例贈与財産か一般贈与財産かを選択する
⑤ 基礎控除110万円が自動で差し引かれ、税額が算出される
⑥ 作成した申告書を印刷またはe-Taxで提出する
なお、複数の人から贈与を受けた場合は、すべての贈与をまとめて1通の申告書に記載します。贈与者ごとに申告書を分ける必要はありません。

相続専門税理士 藤本のチェックポイント
贈与税の申告でよくあるのが、3月に入ってから「住宅資金の非課税を使ったんですが、申告って必要ですか?」と慌ててご連絡をいただくケースです。特例を使って税額がゼロでも、申告しないと特例自体が使えなくなってしまいます。贈与を受けた年の年末には「来年3月15日までに申告が必要かどうか」を確認しておくと安心ですよ。
11. まとめ:生前贈与を活用した相続税対策のポイント
生前贈与は、正しく計画的に活用すれば、将来の相続税負担を大きく軽減できる強力な手段です。
この記事で解説した内容を、最後にポイントとして整理します。
生前贈与の7つのポイント
- 贈与税は相続税の補完機能を持っており、安易な財産移転を防ぐ仕組みになっている
- 課税方法は暦年課税と相続時精算課税の2つ。どちらが有利かは家庭の状況によって異なる
- 令和5年改正で加算期間が3年→7年に延長された。一方、相続時精算課税の基礎控除110万円は加算対象外
- 住宅資金・教育資金・結婚子育て資金・おしどり贈与など、非課税制度を正しく活用する
- 名義預金は税務調査の最大の指摘事項。贈与契約書の作成と通帳管理の徹底が不可欠
- 不動産の贈与は付帯コスト(不動産取得税・登録免許税)を含めた総合比較が必要
- 贈与税の申告期限は翌年3月15日。特例利用時は税額ゼロでも申告必須
生前贈与は家族の将来を守るための重要な対策ですが、制度の理解不足や手続きのミスにより、かえって損をしてしまうケースも少なくありません。
特に以下のような場合は、早めに税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。
- 贈与額が数百万円を超える場合
- 不動産の贈与を検討している場合
- 相続時精算課税の選択を迷っている場合
- すでに名義預金の疑いがある口座がある場合
ラクソウ(相続税申告のラクソウ)では、生前贈与や相続税に関する無料相談を承っております。全国どこからでもお気軽にご相談ください。
12. よくある質問(FAQ)
暦年課税の場合、受贈者1人あたり年間110万円までの贈与には贈与税がかかりません。ただし、複数の人から贈与を受けた場合は合計額で判定されます。たとえば父から80万円、母から50万円の計130万円をもらった場合は、基礎控除110万円を差し引いた20万円が課税対象になります。
多くのケースでは相続のほうが有利です。相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)は贈与税の基礎控除(年110万円)よりも格段に大きく、不動産の場合は付帯費用も相続が低額です。ただし、長期間にわたる暦年贈与や、値上がりが見込まれる資産の早期移転など、贈与が有利になるケースもあります。
一概にどちらが良いとは言えません。長期間にわたり少額ずつ贈与できるなら暦年課税、高齢の親からまとまった資産を移転したいなら精算課税が向いています。なお、精算課税は一度選択すると取り消せないため、選択前に税理士へ相談されることをおすすめします。
扶養義務者から受ける生活費や教育費で、社会通念上妥当な範囲のものは贈与税の対象外です(相続税法21条の3)。たとえば、大学生の子に毎月の生活費を振り込むケースは通常、課税されません。ただし、受け取った資金を貯蓄や投資に回した場合は贈与とみなされる可能性があります。
申告が必要にもかかわらず申告しなかった場合、無申告加算税(15〜20%)と延滞税が課されます。さらに、住宅取得資金の非課税や配偶者控除など、期限内申告が要件の特例が適用できなくなります。また、贈与税の時効は原則6年(悪質な場合7年)ですが、名義預金として「そもそも贈与が成立していない」と判断された場合は時効の問題ではなく、全額が相続財産に加算されます。
①毎年贈与契約書を作成する、②受贈者本人が通帳・印鑑・カードを管理する、③受贈者本人の生活口座に振り込む、④もらったお金を受贈者が実際に使える状態にする——この4つを徹底するようにしてください。
主な変更点は2つあります。①暦年課税の生前贈与加算期間が3年から7年に延長されました(令和6年1月1日以降の贈与から段階的に適用)。②相続時精算課税に毎年110万円の基礎控除が新設され、この基礎控除内の贈与は相続財産にも加算されません。加算期間の延長は暦年贈与にとって不利ですが、精算課税の基礎控除新設は大きなメリットです。