相続に必要な戸籍謄本とは?取得方法・読み方・必要書類を専門税理士が徹底解説
相続手続きを進めるうえで、必ず求められるのが被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本です。
しかし、いざ戸籍謄本を集めようとすると「どこで取得すればいいの?」「何種類もあって違いがわからない」「読み方が難しい」といった壁にぶつかる方が少なくありません。
本記事では、相続における戸籍謄本の役割から、具体的な取得方法、読み方のポイントまで、税理士の視点から詳しく解説します。
この記事で分かること
- 相続手続きで戸籍謄本が必要な理由
- 戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍の違いと見分け方
- 出生から死亡までの戸籍を揃える具体的な手順
- 戸籍謄本の読み方と確認すべき4つのポイント
- 法定相続情報証明制度の活用方法
目次
1. 相続手続きで戸籍謄本が必要な理由
1-1. 相続人を確定するために必要
相続が発生すると、まず「誰が相続人になるのか」を確定しなければなりません。これは相続手続きの出発点であり、最も重要なステップです。
相続人を確定するためには、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて揃える必要があります。なぜなら、戸籍には婚姻歴や子どもの出生といった身分関係がすべて記録されているからです。
たとえば、過去に別の配偶者との間に子どもがいた場合、その子どもも相続人となります。このような事実は、出生から死亡までの戸籍を順番に確認することで初めて明らかになります。
1-2. 相続人全員の戸籍謄本も必要
被相続人の戸籍謄本だけでなく、相続人全員の現在の戸籍謄本も必要です。
これは、相続人が現時点で生存しているかどうかを確認するためです。被相続人の戸籍から子どもの存在がわかっても、その子どもがすでに亡くなっている可能性もあります。その場合は孫が代襲相続人となるため、さらにその方の戸籍を確認する必要があります。
1-3. 遺産分割協議の有効性を証明するため
遺産分割協議書を作成する際にも、戸籍謄本は欠かせません。
遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ成立しません。金融機関や法務局は、協議書に署名した人が本当に相続人全員であるかを戸籍謄本で確認します。もし相続人が1人でも欠けていれば、その協議は無効となってしまいます。
相続税の申告においても、戸籍謄本一式を税務署に提出する必要があります。相続税の仕組みや申告手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
2. 相続に必要な戸籍謄本の種類
2-1. 戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍の違い
相続手続きで必要となる戸籍関係の書類は、主に以下の3種類です。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 戸籍謄本(全部事項証明書) | 現在使われている戸籍で、まだその戸籍に在籍している人がいるもの |
| 除籍謄本 | その戸籍に在籍している人が誰もいなくなったもの(全員が死亡・婚姻・転籍などで抜けた状態) |
| 改製原戸籍 | 法律改正により様式が変更される前の古い戸籍 |
戸籍に在籍する人が誰もいなくなると「除籍」という扱いになります。また、古い様式の改製原戸籍であっても、在籍者がいなくなれば除籍謄本として扱われます。
2-2. 戸籍の「改製」とは?4つのフォーマット
戸籍は過去の法律改正によって様式(フォーマット)が何度か変更されてきました。この様式変更のことを「改製」といいます。
改製が行われると、新しい様式の戸籍が作られますが、改製時点ですでに除籍されていた人の情報は新しい戸籍に引き継がれません。そのため、相続人を正確に把握するには、改製前の戸籍(改製原戸籍)も取得する必要があります。
現在、戸籍には主に以下の4つのフォーマットが存在します。
| フォーマット | 特徴 |
|---|---|
| 明治31年式戸籍 | 戸主を中心とした「家」単位の戸籍。手書き・縦書き |
| 大正4年式戸籍 | 明治31年式を簡略化。手書き・縦書き |
| 昭和23年式戸籍 | 「家」制度廃止後の戸籍。夫婦と子を単位とする。手書き・縦書き |
| 平成6年式戸籍 | コンピュータ化された戸籍。横書きで見やすい |
平成6年式への改製は各自治体で順次実施され、おおむね10年ほどかけて全国で完了しました。
2-3. 戸籍謄本の有効期限
相続手続きにおいて、戸籍謄本自体に法律上の有効期限はありません。
ただし、金融機関によっては「発行から3か月以内」「6か月以内」といった独自の基準を設けている場合があります。手続きをスムーズに進めるためには、戸籍謄本を取得したら早めに手続きを進めることをおすすめします。
なお、相続税の申告では、戸籍謄本の原本ではなくコピーでの提出も認められています。
3. 戸籍の基本ルールを理解する
3-1. 本籍地と住所地の違い
戸籍は本籍地で管理されており、現在の住所(住民票の住所)とは別のものです。
本籍地は日本国内であればどこにでも置くことができます。出生地や現住所に置く人が多いですが、まったく関係のない場所に置いても問題ありません。そのため、被相続人の最後の住所地に戸籍があるとは限りません。
本籍地がわからない場合は、本籍地記載の住民票を取得することで確認できます。
3-2. 戸籍の編製単位
現在の戸籍制度では、「一組の夫婦およびその夫婦と氏を同じくする子」を1つの単位として戸籍が編製されます。
そのため、結婚すると親の戸籍から抜けて新しい戸籍が作られます。この仕組みにより、婚姻した子の情報は元の戸籍には残らず、新しい戸籍で管理されることになります。
なお、昭和22年までの旧戸籍法では「家」制度が採用されていたため、戸主を中心に親族とその配偶者が1つの戸籍に記載されていました。古い戸籍を見ると、兄弟姉妹やその配偶者と子どもまでが同じ戸籍に載っているケースがあります。
3-3. 入籍・除籍・転籍の意味
戸籍を読み解くうえで、以下の3つの用語を理解しておくことが重要です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 入籍 | ある戸籍に新たに入ること(出生、婚姻など) |
| 除籍 | ある戸籍から抜けること(婚姻、死亡など) |
| 転籍 | 本籍地そのものを別の場所に移転すること |
婚姻や死亡によって戸籍内の全員が除籍になった場合、または転籍によって戸籍自体が移転した場合、その戸籍は「除籍謄本」という扱いになります。
4. 出生から死亡までの戸籍を揃える手順
4-1. 本籍地の確認方法
戸籍謄本を取得するには、まず本籍地を確認する必要があります。
被相続人の最後の本籍地がわからない場合は、本籍地記載の住民票の除票を取得しましょう。住民票の除票は被相続人の最後の住所地の市区町村で取得できます。
広島市が本籍地の場合は、広島市の戸籍証明書の請求ページで窓口・オンライン・コンビニでの取得方法を確認できます。

4-2. 戸籍収集の流れ
戸籍謄本の収集は、以下の手順で進めます。
【戸籍収集の手順】
- 被相続人の最後の本籍地で戸籍謄本(または除籍謄本)を取得
- 取得した戸籍から従前の本籍地を確認
- 従前の本籍地で改製原戸籍または除籍謄本を取得
- 出生時の戸籍にたどり着くまで繰り返す
転籍や婚姻を繰り返している方の場合、本籍地が複数の市区町村にまたがっていることがあります。その場合は、それぞれの市区町村から戸籍を取り寄せる必要があります。
広島市に本籍がある方は、広島市の郵送請求の案内ページから手続き方法や必要書類を確認できます。手数料は戸籍謄本450円、除籍・改製原戸籍は750円で、定額小為替での支払いとなります。
4-3. 戸籍証明書等の広域交付制度(令和6年3月〜)
令和6年3月1日から、戸籍法の改正により戸籍証明書等の広域交付制度がスタートしました。
この制度により、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本や除籍謄本を請求できるようになりました。本籍地が全国各地にまたがっていても、最寄りの1か所の窓口でまとめて請求できます。
ただし、以下の点に注意が必要です。
【広域交付制度の注意点】
- 請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られる(兄弟姉妹の戸籍は不可)
- コンピュータ化されていない一部の戸籍は対象外
- 本人が窓口に出向く必要があり、郵送や代理人による請求は不可
- マイナンバーカードや運転免許証など顔写真付きの本人確認書類が必要
広島市にお住まいの方は、広島市の広域交付に関するページで詳細を確認できます。
5. 戸籍謄本の読み方と確認ポイント
5-1. 戸籍を読む際の4つのチェックポイント
戸籍謄本を確認する際には、以下の4つのポイントに注目しましょう。
戸籍謄本の4つのチェックポイント
- 本籍地と筆頭者:どこの誰の戸籍かを確認
- 戸籍事項:編製日、改製日、転籍の有無などを確認
- 戸籍に記載されている者と除籍の有無:誰が記載されているか、除籍された人がいるかを確認
- 身分事項:出生、婚姻、死亡、従前の本籍地などを確認
5-2. 本籍地と筆頭者の確認
戸籍謄本の冒頭には、本籍地と筆頭者の氏名が記載されています。
筆頭者とは、その戸籍の代表者のことです。婚姻により新たに戸籍を設けた場合、夫婦のうち氏を変更しなかった方が筆頭者となります。
同じ本籍地でも筆頭者が異なれば別の戸籍となります。たとえば、子どもが結婚して親と同じ本籍地に新たな戸籍を設けることがあります。この場合、同じ住所に2つの戸籍が存在することになりますので、筆頭者の確認は重要です。
5-3. 戸籍事項欄の見方
戸籍事項欄には、その戸籍がいつ作られたのか、改製や転籍の履歴などが記載されています。
特に確認すべきは「改製」の記載です。コンピュータ化された平成6年式戸籍の場合、「平成○年○月○日 平成6年法務省令第51号附則第2条第1項による改製」といった記載があります。
改製が行われている場合は、改製日より前の情報はその戸籍には記載されていません。改製前の戸籍(改製原戸籍)を別途取得する必要があります。
5-4. 除籍された人の確認方法
戸籍に記載されている人の氏名欄の左側に「除籍」と記載がある場合、その人はこの戸籍から抜けたことを意味します。
除籍の理由(婚姻、死亡など)は身分事項欄に記載されています。婚姻により除籍された場合は、新しく設けられた戸籍の本籍地と筆頭者が記載されていますので、そこからさらに追跡が可能です。
また、改製時点ですでに除籍されていた人は、改製後の新しい戸籍には記載されません。そのため、改製前の戸籍を確認しないと、過去に除籍された子どもなどを見落とす可能性があります。
5-5. 【具体例】親族関係図から戸籍の流れを理解する
ここでは具体的な家族構成を例に、戸籍がどのように変遷していくかを見てみましょう。
【家族構成の例】
- 田中一郎(被相続人):昭和22年4月15日生まれ、令和5年11月20日死亡
- 田中花子(妻):旧姓 鈴木、昭和24年2月8日生まれ
- 田中太一(長男):昭和50年6月12日生まれ
- 田中次郎(次男):昭和53年8月25日生まれ
- 田中文子(長女):昭和56年5月3日生まれ
【田中一郎の戸籍の変遷】
- 昭和45年10月15日:花子と婚姻により戸籍新設。花子が入籍
- 昭和50年6月12日:太一出生入籍
- 昭和53年8月25日:次郎出生入籍
- 昭和56年5月3日:文子出生入籍
- 平成10年3月20日:太一が佐藤美咲と婚姻により新たに戸籍を設けるため除籍
- 平成12年4月1日:平成6年式に戸籍改製
- 令和5年11月20日:一郎死亡除籍
この例で注目すべきは、長男の太一が平成10年に婚姻で除籍されている点です。戸籍の改製は平成12年に行われているため、改製後の戸籍には太一の記載がありません。
つまり、現在の戸籍謄本だけを見ると、相続人は花子・次郎・文子の3人に見えてしまいます。太一の存在を確認するには、改製原戸籍を取得する必要があるのです。
6. 戸籍の附票とは?相続での活用場面
6-1. 戸籍の附票の役割
戸籍の附票とは、戸籍に紐づいた住所履歴の記録です。
戸籍には住所の情報は記載されませんが、住民票だけでは戸籍との関連性を確認できません。この2つをつなぐ役割を果たすのが戸籍の附票です。
戸籍の附票を取得することで、その戸籍に在籍していた期間の住所変更履歴を確認できます。相続登記の際に、被相続人の住所変更の経緯を証明する書類として使われることがあります。
6-2. 附票の取得方法と注意点
戸籍の附票は、戸籍謄本と同様に本籍地の市区町村で取得できます。戸籍謄本を取得する際に、あわせて請求しておくと効率的です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 附票は戸籍に紐づくため、新たに戸籍を編製した場合は、それ以降の住所履歴しか記載されない
- 改製原附票(改製前の附票)や除附票(除籍された戸籍の附票)の法定保存期間は5年間
- 5年経過後の保存は各自治体の判断によるため、古いものは取得できない場合がある
7. 法定相続情報証明制度の活用
7-1. 法定相続情報一覧図とは
法定相続情報証明制度とは、相続人が法務局に戸籍謄本一式と自分で作成した法定相続情報一覧図を提出すると、法務局が確認のうえ、認証文付きの一覧図の写しを交付してくれる制度です。
この一覧図の写しは、戸籍謄本の束に代わる証明書として、不動産登記や金融機関での相続手続きに利用できます。

7-2. 法定相続情報証明制度のメリット・デメリット
【メリット】
- 一覧図の写しは何枚でも無料で交付される
- 複数の金融機関の手続きを同時並行で進められる
- 戸籍謄本の束を持ち歩く必要がなくなる
【デメリット】
- 最初に戸籍謄本一式を揃える手間は変わらない
- 法務局での申出手続きに時間がかかる
- 一覧図を自分で作成する必要がある
7-3. 申請方法と必要書類
法定相続情報一覧図の保管および交付の申出には、以下の書類が必要です。
【必要書類】
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 被相続人の住民票の除票(本籍地記載)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 申出人の本人確認書類
- 法定相続情報一覧図(申出人が作成)
- 申出書
申出は、被相続人の本籍地、最後の住所地、申出人の住所地、または被相続人名義の不動産の所在地を管轄する法務局で行うことができます。
7-4. 相続税申告での利用
相続税の申告においても、戸籍謄本一式に代えて法定相続情報一覧図の写し(またはそのコピー)を提出することが認められています。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 子の続柄が「実子」または「養子」のいずれかがわかるように記載されていること
- 養子がいる場合は、その養子の戸籍謄本の添付が別途必要
8. 戸籍謄本の取得を専門家に依頼するメリット
8-1. 職務上請求とは
弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの資格者は、受任した業務を遂行するために必要な場合、職務上請求により戸籍謄本等を取得することができます。
税理士の場合、相続税申告のために法定相続人を確定し、申告書に添付する必要があるという理由で戸籍謄本等を取得できます。
ただし、職務上請求は税務署提出用として1部の取得が原則です。相続人の手元に複数部数必要な場合は、相続人からの委任状による取得となります。
8-2. 専門家に依頼するメリット
戸籍謄本の収集を専門家に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
- 時間と手間の節約:本籍地が複数にまたがる場合でも、専門家が代行して収集
- 漏れのない収集:改製原戸籍の取得漏れなど、素人が陥りやすいミスを防止
- 読み取りの正確性:古い手書きの戸籍も正確に読み解き、相続人を確定
- 相続手続き全体のサポート:戸籍収集から相続税申告まで一貫して依頼可能
当事務所では、戸籍謄本の収集代行から相続税の申告まで、ワンストップでサポートしております。
9. まとめ:相続手続きは戸籍謄本の収集から
相続手続きを進めるうえで、戸籍謄本の収集は避けて通れない重要なステップです。本記事のポイントをまとめると、以下のとおりです。
【この記事のポイント】
- 相続人を確定するには被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要
- 戸籍には戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍の3種類がある
- 改製時点で除籍されていた人は新しい戸籍に記載されないため、改製原戸籍も必ず取得する
- 令和6年3月からは広域交付制度で本籍地以外でも戸籍が取得可能に
- 法定相続情報証明制度を活用すると、複数の金融機関での手続きがスムーズに
- 戸籍収集は専門家への依頼も検討を
戸籍謄本の収集が完了したら、いよいよ相続税の計算や申告の準備に入ります。相続税の仕組みや申告の流れについては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
相続の戸籍謄本に関するよくある質問
必要な通数は被相続人の婚姻歴や転籍の回数によって異なります。出生から死亡まで同じ本籍地であれば2〜3通程度ですが、転籍や婚姻を繰り返している場合は5通以上になることもあります。また、相続人全員の現在の戸籍謄本も別途必要です。
法律上、戸籍謄本自体に有効期限はありません。ただし、金融機関によっては「発行から3か月以内」「6か月以内」などの独自基準を設けている場合があります。相続手続きをスムーズに進めるためには、戸籍謄本を取得したら早めに手続きを進めることをおすすめします。
まず被相続人の戸籍から相続人を特定し、その相続人が現在入っている戸籍の本籍地を確認します。相続人本人が取得するか、他の相続人が委任状を用いて代理取得することも可能です。直系血族(親子関係)であれば、委任状なしでも取得できる場合があります。
はい、多くの相続手続きで戸籍謄本の代わりとして使用できます。不動産登記、金融機関での手続き、相続税の申告など幅広く利用可能です。ただし、養子がいる場合は別途養子の戸籍謄本が必要になるなど、一部例外があります。
マイナンバーカードをお持ちであれば、コンビニのマルチコピー機で戸籍謄本を取得できます(コンビニ交付サービス)。ただし、対応していない市区町村もあります。また、改製原戸籍や除籍謄本はコンビニ交付に対応していないため、本籍地の市区町村に請求する必要があります。